
値段とジャンル以外、全く中身がわからないという書籍「文庫X」という本が売れているようです。文庫本にしては少し高めの810円(税込)という金額ですが、なぜ人気なのでしょうか。ネタバレ無しで内容を考察します。
値段とジャンルしか分からない本、「文庫X」
書店で本を買うとき、どんな選び方をしますか?
お気に入りの著者や「今売れている」という口コミ・評判、タイトルや表紙に惹かれて思わず手に取った、という人も多いかと思います。
そんななか、ちょっと変わったプロモーションが話題になった本が今、売れているようです。岩手件の盛岡市にある「さわや書店」では、2016年7月から、「一切の情報を出さず、分かるのは値段のみ」という振り切った文庫本プロモーションを仕掛けました。
【さわや書店今夏最大の挑戦!】
店頭で、タイトルを完全に隠したまま文庫を売ってます!
値段以外、一切の情報を伏せてます。
是非手にとってみてください! pic.twitter.com/Qlpo3SYuya— さわや書店フェザン店 (@SAWAYA_fezan) July 21, 2016
店頭POPの主張が激しい。
キャッチコピーは「どうしても読んで欲しい810円(税込)がここにある。」
本だけでなく雑貨なども扱い、店員によるセンス溢れる手書き宣伝POPが人気の「ヴィレッジヴァンガード」を思い出させます。
文庫本Xを買ったった!まだ読んでないw pic.twitter.com/CMLn4Y9OBD
— ざわさん (@jawashan12) September 11, 2016
こちらは本のアップ画像。
表紙にはタイトルなどの情報はなく、500ページを超えること、小説では無いということ以外は、書店員さんのアツいコメントがびっちりと書かれているのみ。
ちなみに本自体がビニール包装されているため、ページをめくって中身を確かめることは出来ません。
また、もし既に同じ本を持っていた場合は返品に応じてくれるそうです。
黒バス合わせのお手伝い?お邪魔?させてもらって帰り道~。欲しかった文庫X買えたので読みながら帰る!わくわく! pic.twitter.com/nziUYjKAJr
— 恋のまな蜜ペッタンコ?30椿 (@pplDOLL9) October 16, 2016
この画像からだとデスノートのようにも見えますね
小説「君の名は。」を押さえて人気1位になるお店も
もともとは通常の書籍として販売されていたものを、さわや書店で包装し直して販売されているようです。
この手法がTwitterを中心に話題を呼び、さわや書店では1ヵ月間で700冊以上が売れていったそうです。現在は300以上もの店舗で販売されています。
東京駅近くの八重洲ブックセンターや、紀伊國屋書店、ジュンク堂書店など、大手の書店でも続々と入荷され、2016年に公開され現在に至るまで大ヒット中の映画「君の名は。」の小説版や、村上春樹「女のいない男たち」など、錚々たるタイトルを押さえて人気1位となる店舗も。
先週の文庫ランキング、あの「文庫X」がついに1位に躍り出ました。入荷も追いつかないほど売れています! pic.twitter.com/UtPpOI3WT3
— 八重洲ブックセンター文芸書担当 (@yaesu_bungei) October 19, 2016
10/17~10/23《週間ベスト!文庫本》
1位『文庫X』
2位『小説 君の名は。』(新海誠/角川文庫)
3位『何者』(朝井リョウ/新潮文庫)
4位『女のいない男たち』(村上春樹/文春文庫)
5位『デボラ、眠っているのか?』(森博嗣/講談社タイガ)
— 紀伊國屋書店グランフロント大阪店 (@Kino_GFOsaka) October 24, 2016
あすは「謎の『文庫X』」をココ調!タイトル不明!中身不明!それでも異例の大ヒット!なぜこの文庫本が売れているのか?人気の理由を曽田麻衣子リポーターが調べてきました!
7時25分過ぎに放送予定☆#めざましテレビ pic.twitter.com/UYVaxr1QiW— めざましテレビ (@cx_mezamashi) October 23, 2016
10月24日のめざましテレビでも取り上げられて以降は、更に加速して話題になっているようです。
なんで好調?
『文庫X』を読んで震えた人なら、その正体が「何の本か」は絶対に言わないと思う。それは応援であり支援であると共に、「この方法でなければ広めることができない」からだ。この方法だからこそ人の興味を引き、この本を届けることができた。こんな戦い方もあるんだと、一書店員として心から尊敬する。
— 波多野彩夏 (@hatano_ayaka) October 23, 2016
こちらは書店員さんのツイート。
この本の一番重要なポイントである「何の本なのか?」という点は、ともすればすぐにネタバレされてしまいそうな気がします。
しかし、中身の画像をSNSなどにアップすればすぐに拡散していくような状況でも、中身を読んで気に入った人ならきっとそんなことはしないだろうという感想。
それほどに本の内容に心揺さぶられる人が多いということでしょうか。
文庫Xてヒットするのわかるわぁ・・(^q^)
それでも貴方に読んで欲しいって推してくれる本てー
多分なにかしら感動や良さを感じさせてくれるだろなー
って思うものー
前知識ないから先入観なく
新しい世界を知るきっかけになるかもしれない的な感じ?
日々刺激と感動を与え偏らないみたいな— sakura (@train_sakura) October 23, 2016
個人的にこのツイートから感じたのは、書籍ではありませんが、同じく今年ヒットした庵野秀明監督による映画「シン・ゴジラ」や、先ほど触れた「君の名は。」のヒットでした。
各作品に共通する点としては、もちろん作品自体の内容が素晴らしいという点は真っ先に挙げられます。今の時代はいくらプロモーションを広げていったところで、中身がついてこないとすぐに飽きられ、廃れていってしまいます。
さらにこの「文庫X」の場合、あえて中身を言わない、ということで関心を引く方法がヒットしました。
今はamazonを中心にネットでも手軽に本を買える時代です。
もともと知名度があるものであれば、どんどんネットで「指名買い」される状態ですが、本屋さんに行って本を買う人は、「何か面白そうな本は無いかな?」と自分が知らなかったものとの出会いを求めて訪れるため、その欲求をくすぐったのが今回の「文庫X」という作品だったと考えられます。
一方で、作品の肝である部分が大きくネタバレもされず、かつ「面白い!」という感想がたくさん広がり、口コミを見た人が「自分も見てみたい」と感じて実際に触れてみる、といった構図は、Twitterを始めとしたSNSが普及した現代を象徴するような現象です。
この点については、もはや購入者のモラルを信じるのみ、と考えられますが、そこを促すのはやはり作品の内容。上記の書店員さんのツイートにもある通り、この文庫Xはそこが合致したのでしょう。
韓国でも話題に
この文庫X、韓国でも話題になっているが、この商法は日本だからこそのものとする意見が多い。ネットユーザーからは、「本をたくさん読む国だからできるんだ」「韓国人には受けないだろうな。すぐにカバーを外してぱらぱらめくり、結局は買わないはず」「お金を使うんだから、自分に必要なものかどうか知ってから買うべきでは?」「韓国でこういう提案をしたら、その店員は即クビ。他人がやれば斬新だけど、自分の部下だと狂った発想ということになる」などの声が寄せられている。
お隣の国でも話題になっているようですが、この手法は「日本ならでは」とも言われています。
確かに、映像や音楽などもすぐに違法アップロードされる海外では、文庫Xのような形で展開してもすぐに広まってしまう可能性はありますね。