
ネット囲碁に突如現れ、日本、そして世界のチャンピオンさえも撃破し60戦無敗の快挙を成し遂げた謎のアカウント”Master”。そんな囲碁界を震撼させたMasterの正体がGoogle製AIの”AlphaGo”であることが明らかになりました。
ネット囲碁を震撼させた最強棋士”Master”
多くの人がのほほんと過ごしていたであろう年末年始ですが、どうやら囲碁界はそんな我々のぐうたらぶりとは裏腹にとんでもないことになっていたようです。
2016年末から2017年始のまさに年越しシーズンにかけて、Tygem、FoxGoという2つの大手囲碁対戦サイトに”Master”を名乗るアカウントが突如現れ、世界のトップ棋士をバタバタとなぎ倒していくという漫画さながらのトンデモな出来事が起こっていた模様。
それもこのMaster、本当にちょっとやそっとの実力ではなく、1月2日には日本最強の棋士、井山六冠を破り、翌日の3日には世界ランキング2位の韓国人棋士、朴廷桓と世界ランキング1位の中国人棋士、柯潔をも打ち倒してしまったそう。ちなみに柯潔はこの戦いの後入院してしまったそうで、如何に白熱した戦いだったかが窺い知れます笑
最終的に2つのサイトで合計60連勝の快挙を成し遂げたMaster、最後の1戦は世界ランキング上位の中国人棋士、古力を打ち倒しました。名前に恥じない素晴らしい成績です。
この謎の最強棋士の登場を受けて囲碁界ではその正体についての議論が交わされていましたが、Google社傘下のDeepMindのCEOであるデミス・ハサビスがMasterの正体は囲碁AIの”AlphaGo”であることを明かしました。
どうやら今回のMasterのネット対局は、AlphaGoの改良のための非公式テストだったようで、ハサビスCEOは対戦したプレイヤーへの感謝の言葉を述べるとともに、2017年内には各団体とも連携した持ち時間の多い公式戦を行うことを発表しました。
呆気なく幕を閉じたMaster騒動でしたが、今回の結果を受けてさらなる囲碁AIの発展が待ち受けていることは間違いないでしょう。

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Masterの対戦記録
30戦0敗という圧倒的な強さ 確かに人間よりAIと言われたほうがしっくりきますね…
囲碁AI”AlphaGo”とは?
Masterの正体もわかったことですし、ここからはAlphaGoがいかに凄まじいソフトであるかということを紹介していきたいと思います。
基本的にこれまでのボードゲームのAIは総当り的な方法で手を選択することが多かったため、オセロやチェスといった選択肢の少ないゲームでは人間を相手にしても十分戦えたのですが、将棋や囲碁はオセロやチェスに比べて遥かに多くの選択肢、手順が存在するため、どれだけ優秀なAIであってもその手筋を読み切るのは困難であり、柔軟性、想像的思考に優れる人間に勝つことは難しいとされていました。
しかしながら、AIの成長の速度は多くの専門家の予想をも遥かに上回るものでした。1997年に当時チェスの世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフがAIのディープ・ブルーに敗北し、将棋電王戦でも数多くのプロ棋士がAIに破れ、人間にとって最後の砦となっていた囲碁ですが、2016年に行われたAlphaGoと世界トップクラスの韓国人プロ棋士イ・セドルの対局で4-1でAlphaGoが勝ち越し、とうとう囲碁でもAIが世界のトップレベルに肉薄していることが証明されてしまいました。
このAlphaGoが画期的だったのは、これまでの総当りで最善手を探す方法とは異なり、AIがプログラム自身との対局を繰り返し学習することでした。そのため、開発チームさえもどのような理由からその手を指したのか説明できないというまさに”人工知能”にふさわしい進化を遂げたのです。

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AlphaGoとイ・セドルの対局の様子。
五番勝負で行われたこの対局で、AlphaGoは4-1で勝ち越した。
この対局を経てAlphaGoはなんと世界ランク2位にまで浮上、その後は1位の柯潔が調子を崩したこともありなんとAIとして初の世界1位に君臨します。自分自身と対局を繰り返し、ディープラーニングを続けるAlphaGoは今でも成長を続けています。まだAlphaGoが公式戦としてプロ棋士と対局を行ったのはイ・セドルとの対局のみなので、他のトップ棋士との戦いも今から楽しみです。
将棋の魅力とAI
多くの仕事は近い将来AIによって奪われるといわれる昨今。
でもその中でも生き残るために大切な要素の一つとして、人間性が挙げられています。
どうして人間がやると面白いのか
将棋について言えば、勝ち負けに伴う感情の変化。
例えば圧倒的に強い将棋のソフトが生まれたとして、そのソフト同士の対決を見たら面白いでしょうか?
正直言ってロボット同士の対決なんて無味乾燥で、誰も面白がらないのではないかと思います。
勝てばうれしい、負ければ悔しい。
この感情の変化に伴う人間性こそが、将棋を感染することの面白味だと言えるでしょう。
その意味で、棋士という職業が今後なくなる可能性は低いと言えます。
ただこれまで以上に、見ている人を楽しませる将棋が追及されるようになるかもしれませんね。
単に強さを磨くだけではAIに負けてしまいますから、どのように将棋を通じて人間性に魅力を持ってもらえるか、という点が今後は重要視されるのではないかと思います。
AI同士の戦いでは見られないような、人間味あふれる対戦が見られるようになるかもしれませんね。
AIと共存するには
AIは人間では思いつかないような、あるいは思いついても踏みとどまってしまうような奇策を躊躇なく繰り出してきます。
このようなAIの独創的ともいうべき手が、多くの棋士の意表をついてきたことは割と知られていますね。
これからの時代、棋士に必要なのはこのようなAIが持つ独創性、大胆さを吸収することではないでしょうか。
きっとAIとの対戦によって、新たな視野が開けるなど、プロの棋士にも何か得るものがあったのではないかと思います。
そしてそれは将棋の世界に限らないでしょう。
おそらくどの分野においてもAIは普及していきますが、そのAIから何を吸収し、何を生み出せるかが、これからの世界で生きていくためのカギであるように思います。
ボードゲームとAIの今後について
このようにAIがトッププレイヤーに勝利するようになると必ず言われるのが、「どうせAIに勝てないのならプロなんていらないのではないのか」ということです。例えば将棋電王戦の時も、プロが負け越した際にはネットでこのような意見を多く目にしました。
しかし、個人的にはAIに負けるプロはいらないという意見には全く賛成できません。冒頭で紹介したMasterと対局した中国のトップ棋士、古力は対局の後「人間とAIは共同で、間もなく囲碁の深い謎を解き明かす」とコメントを残しています。
AIがプロより強くなったとしても、エンターテイメントとしての人間同士の勝負は全く魅力を損ないませんし、むしろAIを利用してよりハイレベルな研究を行うことで新たな定石、戦略を生み出すこともできるでしょう。また、AI対人間という戦いも見ている側からすれば非常に面白いエンターテイメントです。普段囲碁や将棋に興味のない人でも世界のトッププレイヤー VS 人工知能という煽り文句ならば惹かれる人も多いのではないでしょうか。
むしろ個人的には、なかなかトップ棋士をAIと対戦させたがらない日本将棋界に不満があります。それで負けても別にプロの価値は落ちないし、むしろ時間が経てば経つほどAIは学習を繰り返して強くなるのだから、さっさと戦った方がいいのにと思います笑
中韓のようにトッププレイヤーが積極的にAIと戦い、ゲームとしての発展と新たなエンターテイメントとしての視点の開拓に努めることができるのが、AIと人間の最高の共存の形ではないでしょうか。

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将棋電王戦の様子
個人的に羽生三冠を始めとするトップ棋士とAIとの対局を本当に期待しています